家康賞（優秀賞）

　「やっぱり平和が一番大切だね。」
お父さんが、そう言ったのは家族でテレビドラマを見ていた時です。岡崎市を舞台にしたドラマ「純情きらり」は、日本が戦争をしていた頃のお話しです。岡崎の空しゅうを体験したおばあちゃんも、
　「戦争はいやだね。平和がいいね。」
と言います。ぼくも夏休みの自由研究で昭和初期の岡崎について調べていくうちに、平和の大切さがよくわかりました。太平洋戦争が終わって六十年間も平和な時代が続いているのは、とてもいいことだと思います。
　「日本の歴史で二百年以上も平和が続いた時代がある。それは何時代かわかるかね。」
歴史好きなお父さんが、ぼくに質問をしました。平和が二百年以上続いたなんてすごいなと思い、ぼくはさっそく調べてみることにしました。そこで、ぼくは徳川家康という岡崎で生まれた偉大な人物と出会うことになるのです。

　徳川家康は、日本全国を統一して江戸幕府を開いた人です。家康が生まれた頃の日本は戦国時代でした。日本の各地に戦国大名がいて、おたがいに自分の勢力をのばそうと戦争ばかりしていました。武田信玄、上杉謙信、今川義元、織田信長など、調べてみると強そうな名前がどんどん出てきます。これらの戦国大名が合戦をくり返していたので、日本は平和ではありませんでした。合戦のたびに多くの人が死んだり、傷ついたりしたはずです。テレビや映画を見ていると、合戦のシーンがとてもかっこよく描かれています。やりや刀をふりまわして、敵をたおすのはかっこいいけれど、刀で切られたり、やりで突かれて死んでいく人の痛みや苦しみは、どんなにつらいことでしょうか。そして、戦死した人の家族は、どんなにか悲しい思いをしたことでしょう。

　岡崎市内にも古戦場の跡があります。小豆坂古戦場には、織田氏と今川氏が戦った古戦場で家康の父、松平広忠もこの戦に参加しています。そこには「血洗池」という池がありました。戦で傷ついた人々の血で池が真っ赤にそまった様子を想像すると背すじが寒くなるほど恐ろしくなります。井田野の合戦は徳川家康の先祖である松平親忠が北方から攻めてきた軍と戦った合戦です。この合戦でもたくさんの人が死にました。そのため、夜になると刀の打ち合う音、軍馬のいななき、人々のうめき声が聞こえてくるようになり、伝染病まで流行したそうです。合戦の跡地には千人塚があります。戦死した人々を埋葬した塚ですが、たくさんの人が戦死したことがわかります。くやしさやうらみを残して死んでいった多くの人々の亡霊がざわざわ起こすと考えられ、七日七夜の念仏供養が行われました。合戦のたびに多くの人々が死んでいく。これが戦国時代だったのです。

　この戦国時代を終わらせ、日本に平和な時代をもたらした人。それが徳川家康でした。
「厭離穢土、欣求浄土」という言葉を知っているか。家康の出発点は大樹寺だぞ。」
お父さんが何かむずかしい言葉を言い出しました。ぼくは、お父さんが言う「厭離穢土、欣求浄土」という言葉の意味を調べるために大樹寺へ連れて行ってもらい、そこで家康についてもとても大切なことを学びました。

　家康は、桶狭間の合戦で今川義元が戦死した時、大樹寺へ逃げ帰りました。「もうだめだ」と思った家康は、先祖のお墓の前で死んでしまおうとしたのですが、大樹寺の住職から「厭離穢土、欣求浄土」という言葉を教えられて立ち直りました。このむずかしい言葉の意味は、「大名や武士が戦いばかりしている戦国の世を、人々が安心して生活できる平和な世の中にする」ということだったのです。それ以後家康は、この言葉を心の中で思い続けながら天下統一をめざして多くの苦難を乗り越えました。家康のめざした天下統一は、戦国時代の戦いを終わらせて、日本を平和にすることが目的だったのです。そして家康は、見事にこの目的を達成しました。江戸幕府が開かれ、大坂の陣が終わると日本は平和な時代に入ります。江戸時代の二百六十年間は、徳川家康によって築かれた平和な時代だったのです。

　お父さんの質問から徳川家康のことを調べ始めましたが、ぼくは家康を通して平和について学ぶことができました。今、世界の各地で戦争が行われています。日本の近くでもミサイルが発射されました。世界は、まだ平和の時代とは言えません。もし今の時代に徳川家康が生きていたら、こう言ったでしょう。
　「戦争はいけない。みんな武器を捨て、戦いを止めなさい。みんなの協力で、安心して住める平和な世界を作りましょう。」

　徳川家康が生涯をかけて作り上げた日本の平和。私たちは、この日本の平和を守り続けるとともに、世界の平和をめざすべきです。
　「厭離穢土、欣求浄土」をスローガンに。